名称について
樹種について
樹高について
目通り幹囲について
推定樹齢について
所在地について


 
名称について

 はじめにの項で記したように、巨木は敬愛する友である。友を呼ぶには名前が欲しい。ヒト・男では味気ないように、イチョウ・雄株ではシラジラしい。
 記念物等については指定名称があり、たいていはそれを採用した。が、単に「大杉」「大ケヤキ」などは所在地の名を冠して、私が勝手に命名した。漢字とカナの違い、「の」の有無など、現地の案内板の表示を優先したケースが多い。
 しかし、調べきれなかった部分もあり、最終的には私の勝手な判断に依るところもある。当サイトに示した名称は、必ずしも「正式名称」ではないことをお断りしておく。
 
 

 
樹種について

 平凡社「日本の野生植物 木本T・U」に基づいて樹種名を決定した。
 (※8)

 
 

 樹高について

 
樹高はしばしば変わるものである。どんなに太い木でも最頂部は細い枝であり、少しの衝撃で折れやすい。まして信越の豪雪地帯ならなおさらである。また、新芽が伸びれば2〜3mくらいすぐ増えてしまう。(※)
 測定するに際しても、開けた見通しの良い平坦地に立っている場合を除いて、困難が伴う。
 自らも引用していながら恐縮だが、毎年変わりやすいものだ、という点を差し引いても、旧環境庁データには頷けないものが多々ある。(その点で、年変化がわずかな幹囲だけを巨樹の尺度とした同庁の姿勢には賛成できる)
 ここは、背が高いのか低いのかぐらいに、大まかにつかむだけにしてほしい。

※最初、このウェブサイト(「人里の巨木たち」)は、「信越地方の巨樹探訪」の副題で公開していた。
 

 
目通り幹囲について

 「目通り」とは、人が傍に立ったとき、その目の高さの太さを表す語である。とは言っても、背の高い人も低い人もいて、測定点がまちまちになっては困るので、地上何mの高さ、と決めてあることが多い(旧環境庁は1.3m)。また、その太さについては、「直径で表す」としてある辞書も多いが、平凡社「世界大百科事典」(1972年初版本)のように、周囲長で表す方が普通である。なぜならば、幹の断面が真円である樹木など、ほとんど無いからである。真円でなければ、尺度としての「直径」など意味をなさない。(※9)

 目の高さで数本の幹に分かれていたらどうするか。
 旧環境庁の「巨樹・巨木林調査実施要領」は、1本1本の幹の太さを測り、合計するよう指示している。さまざまなケースに適用してみて、これが一番実際的だとの判断だと思うが、素人には納得できかねる面もある。たとえば下図の例を取り上げると、環境庁方式では7πRだが、直感できる太さは3πRである。(幹が密集している場合、私の目測データはこれを3πRとしている)

 なお、書物等から引用する場合、樹高については小数点以下第一位、幹囲については小数点以下第二位を四捨五入して、元の数値を丸めさせてもらっているのでご注意を。
 

 
推定樹齢について

 樹齢の判断は難しい。
 普通、樹齢は年輪から計測するが、生きて立っている木を輪切りにするわけにもいかない。地質調査の方法を借りて、中心部に至る小さな穴を掘り、得られた資料から年輪を調べることも出来ようが、巨木に穴を開けるのは抵抗がある。私自身そうまでして調べる必要があるとは思わない。放射線等を利用して、CTスキャナのような装置を工夫すれば、あるいは年輪を数えることができるかも知れないが、現時点ではそのような装置の話を聞かない。

 そもそも巨木の中心まで、しっかり年輪が詰まっているとは限らない。多くの巨木は、内部が空洞であったり、腐朽していたりする。
 それを逆に利用して、炭素14法により、腐朽が始まった年代を調べることもできるかも知れないが、それは樹齢の下限値を定めるに過ぎない。

 結局のところ、樹齢の確かな木を標準木として、比較対照により推定する以外になさそうだ。たとえば新潟県上越市浦川原区顕聖寺の二代杉の来歴伝承は確からしく思えるので、これを新潟県積雪地帯のスギの標準木とし、これと大きさを比較して樹齢を推定するといった方法である。立地条件により生育状況は異なるだろうから、さまざまな状況下における樹種別標準木が必要なことは言うまでもない。

 そんな中で、新風舎「巨樹と樹齢」の著者渡辺新一郎氏の研究は興味深い。基本的には、現在の成長量から逆算して樹齢を推定しようとする試みで、なかなか説得力ある方法である。サンプル木を増やし、測定部位・方法を厳密に統一して、せめて50年くらい幹囲を測り続け、有為の変化量を大きく取れれば、かなり信頼に足る推定樹齢を導出できるのではないかと思われる。

 私なりのごく荒削りな推論によれば、樹冠の表面積に比例して炭水化物が生産され、それが樹木が生長する糧の全てだと仮定して物理学的に考察すると、他の樹木と競争しなくてもよい環境で順風満帆に育った独立木の場合、樹木が三次元的に生長する間の(中心付近の)年輪は、最初の10年間ほどを経た後はほぼ等間隔だが、樹高が頭打ちになった時点から先では(ある太さから外側では)直径に反比例して間隔が狭くなるだろうと予想される。従って、現在の生長速度をそのまま単純に当てはめて計算した場合、樹齢が若い木では正しい樹齢に近い値が出るだろうが、巨木に関しては、実樹齢よりもかなり大きな数値になってしまうだろうと思われる。(※7)
 実際には、老木になって樹高がむしろ低くなったり、大枝を失ったりして、生長速度は計算以上に遅れるはずである。水揚げが悪くなって炭水化物の生産効率が落ちることもあるかも知れない。この場合は、現在の生長速度をもとに計算した樹齢よりも実際はずっと若い可能性が大きい。
 逆に、人が手を加えたり、競争相手が倒れたりして生育環境が良くなり、枝を多く伸ばすようになって日光を受ける葉の数が多くなった巨木では、その頃から年輪間隔が広がる可能性もあって、思うほどには単純でないだろうが、樹齢の最大値を推計するのに、それほど的外れな考えではないと思っている。

 さて、当ホームページにおける「推定樹齢」だが、現地の案内板や伝承値をそのまま掲げてあることが多い。それは当サイト「人里の巨木たち」のタイトルのように、人と巨木の関わりという観点で取り上げたかったからである。
 一般的には、伝承樹齢は実際の樹齢をはるかに上回っていることが多い。坂上田村麻呂や行基や弘法大師など、これほど各所で植樹したかと驚くほどである。これらは、親しんだ巨木を誇る気持ちの表れとして、すなおに受け入れたいと思ったのである。
 従って、科学的観点から見れば、当ホームページの推定樹齢には正しくないものも多く含まれている(たとえ、それが書物からの引用であっても)。実例を挙げれば、前述した目通り8.2mの二代杉の樹齢は約500年である。目通り6m程度のスギが500年を超えているとは信じがたい。渡辺新一郎氏の研究も、多くの巨木の樹齢が大きく見積もられすぎていることを示唆している。(ただし、互いにすぐ近くに並立する木でも、微妙な生育環境の違いにより、かなりの個体差が生じることはある)
 以上をご承知の上で、推定樹齢データをご覧あれ。
 

 
所在地について

A.地名

 郵便物は地名と番地あるいは番号で届く。しかし、その土地に住んでいる人ですら、番地あるいは番号によって実際の位置がわかる人は殆どいない。従って、当該地域の住宅地図でも持っていない限り、大字名+番地から所在地を知ることは難しい(集落の名がわかっていると、地域はかなり限定されるが・・・)。
 地名から位置を割り出すことができるのは、巨木が神社・寺院や公共施設などに所属しているケースのみであろう。(※1)(※4)

B.3次メッシュコード

 旧環境庁の「日本の巨樹・巨木林」で採用されたのは、国土地理院の3次メッシュコードである。これは、基本的に、国土地理院が作成した2万5千分の1地形図上で所在地の見当をつける方法と言ってよい。(同書の3次メッシュコードには誤りが多いので、私のサイトでは、緯度・経度から計算し直した数値を載せている)

 8桁の数値のうち最初の4桁は、どの20万分の1地勢図に含まれるかを決定する。最初の4桁のうち前2桁は、地勢図の南西端(左下角)の緯度を1.5倍した数字、後2桁は同じ点の経度の下2桁の数である。
 実例を挙げよう。
 5538という4桁の数値がある。このうち55は緯度(日本ではもちろん北緯)を1.5倍した値であるから、逆に1.5で割れば北緯の値が出る。55÷1.5=36と3分の2。つまり、該当する地勢図南端の緯度は北緯36度40分であることがわかる。1枚の地勢図の南北方向の幅は40分だから、北端の緯度は37度20分である。(時間と同じように、1度の60分の1が1「分」、1「分」の60分の1が1「秒」である)
 5538のうち後2桁の38は経度(日本は東経100度台)を表しており、また1枚の地勢図の経度幅は1度なので、該当する地勢図の西端の経度は東経138度で、東端の経度は東経139度である。
 以上より、所在地は地勢図「高田」内にあることがわかる。(以上が1次メッシュ)

 次の2桁は、その地勢図内を8×8、つまり64等分して、2万5千分の1地形図を決めるコードである。数値はそれぞれ、地勢図の南西端(左下角)を原点とし、前1桁で上下(つまり南北)、後1桁で左右(つまり東西)方向について、0〜7の8種の数字で相対座標を与えている。
 たとえば5538−42なら、地勢図「高田」に含まれる地形図のうち、下から5番目、左から3番目の地形図である「新井」のなかに所在地が含まれていることがわかる。(以上が2次メッシュ)

 8桁の数値のうち最後の2桁は、地形図内の相対位置を表す。方法は2次メッシュと同様だが、こちらは縦横それぞれ10等分し、0〜9の数値で表している。(これが3次メッシュ)

 これら8桁の数値で局限される範囲は、緯度によって異なるが、信越圏内ではおよそ南北926m、東西1086m〜1134mとなる。3次メッシュコードは探索範囲をおよそ1平方kmにまで狭めてくれる。

C.緯度・経度

 最近はGPSを用いて現在地を知ることができるようになった。「秒」まで指定すると、所在地を数十m程度の範囲に限定できる(現在のところ、これが究極の位置表現法であろう)。緯度・経度を入力すると、目的地までのルートを示すカーナビもある。また、ハンディタイプの「ポケナビ」(下図参照)なる商品も出回っているので、人に尋ねなくとも、自力で巨木の傍まで辿り着ける(土地の人々と会話する魅力も捨てがたいが・・・)。(※5)

 ここでひとつお断りしておくが、掲載した緯度・経度は、厳密に正確なものではない。巨木が立つ位置、そのものズバリでないことも多い。しかし、この位置を目指して行けば、目指す木が見えてくるはずである。その意味で、所在地へのガイドとしての役割は果たしているものと考えている。(何も断り書きがなくとも、最大で100m程度の誤差はある。従って、掲載データをもとに緯度・経度で地図検索する場合、川や道路の近くでは、反対側に表示されることもあるので注意)(※6)

 地図と緯度・経度との関連づけは、電卓と50cmのプラスチック定規が有ればできるが、国土地理院の嬉しいホームページ地図閲覧サービス(※3)があることも見逃せない。そこで表示された地形図上の1点をダブルクリックすると、緯度・経度が示される(※2)。また、逆に緯度・経度を入力して検索すると、その位置を地形図上にマークしてくれる機能もある。
 信越圏内では「秒」まで指定したときの限定範囲は南北31m、東西24〜25m程度となる。(※6)

 但し、緯度・経度から位置を割り出す場合は、2002年4月1日に測地系が日本測地系(東京測地系)から世界測地系に変更された点にご注意いただきたい(当サイトのデータは、上記地図閲覧サービス(※3)にならって世界測地系である)。それまでに発売されたナビゲーションシステムで採用していた日本測地系(東京測地系)を、世界測地系に修正するには、信越地域では、緯度の値を+11〜12秒、経度の値を−11〜12秒すれば、ほぼ変換されるが、より正確な変換結果をお望みなら、Web版TKY2JGDが便利である。(因みに、私のカーナビでは、現在地表示は世界測地系だが、目的地入力は日本測地系(東京測地系)でなければならない)(※10)
 また、自らのデータに整合性が無く恐縮だが、3次メッシュコードは日本測地系(東京測地系)のままで示している。それは市販されて出回っている地形図は、現時点(2002年8月)では日本測地系(東京測地系)に基づいているからである。
 2種類の測地系が混在するのは、過渡期ゆえの混乱とご容赦いただきたい。

                               2002.08月 記す





※1)その後、地図制作会社のサイトなどで、所番地から位置を割り出すことができるようになった(都市部以外の情報がごく少なくて残念だが)。なお、一部の地図制作会社のサイトや、多くのカーナビでは、改訂から10年近くを経た今でも、依然として日本測地系(東京測地系)に基づく緯度・経度を表示しているのでご注意を。(地球全体を視野に入れているグーグル地図は、もちろん世界測地系)(2010年11月追記)

※2)ダブルクリックで位置を割り出すサービスは、平成23年夏に、予告なく、突然終了してしまった。(2011年9月追記)/さらにその後、「地理院地図」に移行してからは、右クリックで緯度・経度はもちろん、標高など他情報も豊富に加えて復活した(2014年9月4日追記)

※3)2014年3月末で、「地図閲覧サービス」は終了し、「地理院地図」に移行した。いろいろな機能を加えたすばらしいウェブサイトである。(2014年4月9日追記)

※4)当サイトに表示しているのは、原則的に訪問時の地名である。その後の地名変更については、掌握できる限り新しい表示に変更するつもりだが、合併に伴う市町村名の変更以外には、対応できる自信が無い。(2014年4月18日追記)

※5)その後、スマートフォンが普及して、緯度・経度の測定が容易になった。また、GPS機能を搭載したカメラも出現し、撮影位置の記録も出来るようになった。(ただし、私が所持するスマホの場合、開けた場所では十分な精度が得られるが、谷間等GPS電波の弱い場所では誤差が100m以上にもなり、極めて精度が悪い)(2016年6月4日追記)

※6)
0.1秒の単位まで数値が示してある個体については、実用的な意味での位置の誤差は十分に小さいと思っていただいてよい(もしも私の勘違いがなければ、誤差10m未満)。しかし、当然のことではあるが、測定したのは樹木の位置でなく、測定者が立つ位置であることをお忘れなく。(柵があって近づけないことがあるほか、樹木の直下はGPS電波の受信状態が悪いことが多く、数m〜10m程度離れて測定することが多い)。ただし、グーグル・アース等により個体が識別できるケースでは、なるべく樹木そのものの位置を表すよう努めた(†)。なお、今後、時間はかかるが、掲載する全個体について、位置を正しく調整するつもりである。(2016年9月22日追記)(2017年2月、調整作業終了)/(†):グーグル・アース(航空写真)の画像が、正確に正しい位置に配置されているかどうか、多少の疑問もあるのだが(特に画像のつなぎ目付近等)、違っているにしても、たかだか10m未満と思われる。そのため、グーグル画像で個体識別できるケースでは、私自身の測定値よりもグーグル画像(アップロード日時点の画像)に一致するように数値を調整してあるので、その点はご了解を。(2019年8月30日追記)

※7)「3次元生長期間は幹囲増加率が一定で、それを過ぎると幹囲増加率はその時点における幹囲に反比例する」という、ごくごく荒削りなモデルで計算すると、現在の幹囲が600cm、現在形成されつつある年輪の間隔が1.5mm(幹周増加率にすると0.942cm/年)、最初の3次元生長期間を50年とすると、計算樹齢は345年となる。(2020年8月21日追記)

※8)従って本文中に記した科名についても同書が発行された当時のエングラー分類体系による科名で表現している。新しいLAPG分類体系において科名が変更されている場合があるが、記述内容をすべて追跡するのは困難なのでそのままにしてある。科が変更されたものについては、それぞれの体系毎に樹種別リストを用意したので、それら2種類の樹種別リストを比較参照していただきたい。(2020年10月1日追記)

※9)その後、建築用材として樹木を見る場合、どれだけの幅の板がとれるかという意味で、林業的には周囲長よりも直径が重要なのだと教わった。(2020年9月20日追記)

※10)その後、私が所有した車では、2017年に購入した車まで、純正車載ナビはみな、表示は世界測地系で入力は日本測地系という仕様だったが、2022年に購入した車の車載ナビは現在地表示・目的地入力とも世界測地系である。これでやっとグーグル地図や地理院地図で調べた緯度経度を(数値変換せずに)そのまま入力できるようになった。(2022年3月19日追記)

(最初の頃の)ポケナビ